「成功したところがない」から、やってみよう

このような画期的なフランチャイズの試みは、全国でも初めてのものだ。それだけに、苦労も多かったという。
しかも、最終日標は2200万世帯。ふれあいレディーも、500世帯に一人は必要である。ポスティングにたずさわるばかりではなく、ワープロ、パソコン、書道などの特技を持っていながら、現在職についていない女性の登録もすすめているので、将来は何十万人もの規模になるだろうという。三上は、彼女たちを対象にした共済など多種多様な事業も考えているという。
そんな大構想なのだから、三上はまだまだ苦労のまっただなかにいるといってよい。
「これまでに、特定の地域のなかで、このような宅配のシステムをとっているところはあったんです。しかし、全国フランチャイズで成功しているところはない。手がけているところは1社あるんですが、そこもまだ成功にはほど遠い地点にいる。しかし、だからこそ、やってみる価値のある事業だと思います。社会的な認知をまったく受けていない分野ですから、これから伸びる可能性があるんですよ」
とはいっても、このような地域密着型の女性パワーの前例がまったくないわけではない。たとえばヤクルトは、いわゆる“ヤクルトおばさん”を動員して、配達家庭の家族構成などの調査を始めている。いまのところ、新しい事業に結びついてはいないが、マス形態のコミュニケーションに限界が生じてきた現在、だれもが、地域密着型のロコミ型チャンネルに注目するのは、当然といえば、当然である。「こういう事業を発想した人は、たしかにたくさんいるんです。しかし、結果に結びつけた人は、まだいない。お手本はないんです。結局は、やってみて、それで考える、そういったことの繰り返しなんですよ。それも、ある程度結果が予測できればいいんですが、予測できない部分が多すぎるんです。軌道修正を繰り返しながらやっている状態なんです」
三上のことばを聴いていると、起業家精神、ここに極まれりといった印象を受ける。先例がないからやってみようという発想は、けっして大企業のものではない。大企業でならば、先例のあることしかできない。先例がないことに手をつけて、失敗したときには、責任問題が発生する。派閥の抗争がからんでくれば、それをきっかけに制裁人事なども起きかねない。だからだれも、新しい分野には手をつけたがらない。
事実、三上に会ったある大企業の社長は、つぎのようなことをいったという。
「三上君、いまキミのやっていることを、ぼくも昔考えていたよ」
しかし、その社長は、プロジェクトを起こし、事業部としてこれを推進した段階でやめにしてしまったのだそうだ。これだけの大事業は、オーナーが情熱を傾けて参画しないと先が見えてこないからであろう。
たしかに構想が大きいだけに、問題点はいくつか指摘できる。その点は三上も認めている。
「考えてみると、問題はいくつかあります。たとえば、このネットワークを使って商品をカタログで販売するにしても、納品にかかる日数をどうするか、品揃えをどこまで拡げるか、などなど、問題は何点かある。
しかし、それでも続けてきたのは、このビジネスを最後まで成功させようという意気込みがあったからなんですよ」
大企業にしかできない、スケールメリットをいかした仕事がある。
しかし、逆に小企業だからこそできる仕事というものがある。大企業ならば、先を読みすぎて手を引いてしまうところでも、小企業ならば、意気込みで突っ走れるというメリットがあるである。
それは、つまり、机上の論理では、出発しないということだ。ある程度の予測がつき、大きな問題の解決がはかられた段階でゴーサインを出してしまう。そうすれば、それまで見えなかった細かい部分もいろいろ見えてくるようになる。考えるよりも、まず実行なのだ。
よく考えてみれば、現在、大企業と呼ばれるところでも、そのような先人の意気込みで突っ走ってきたからこそ、いまの姿があるのではないだろうか。企業の創生期には、かならず、そのような意気込みがあったはずである。
いま、三上を前にしていると、一種の爽やかさを感じるのは、彼にそのような創生期の意気込みが感じられるせいだろう。