セールス現場で受けたカルチャーショック

もっとも、いくら「営業タイプの経営者になる」と決意しても、すぐさま会社がつくれるわけじゃない。すぐに走りだしてしまう山ロにも、そのくらいのことはよくわかっていた。
そこで、彼はとりあえず就職して、ビジネスのノウハウを吸収しようと決意。まずは、ビジネスの実際の現場を経験して、ビジネスを肌で感じようと考えたのである。
就職先は、新聞の広告で探した会員権セールスの会社だった。2浪して就職した彼は20歳になっていたが、少なくとも35歳くらいまでは勤めるつもりだった。それぐらい時間をかけなければ、営業のノウハウは身につかないと考えていた。
ところが、同時に入社した連中の考え方は、まったく違っていた。
彼らは、研修の間から、
「これは簡単に売れそうだな」
「三か月くらいはやってみる価値がありそうだ」
「俺は半年はやってみるよ」
というような話しかしない。そんな言葉は、すでに経営者になる決意を固めていた山口恭一にとって、いかにも人生をあまくみているような気がしてならなかった。
もっとも、当時の経験は、中途採用の社員を多く抱えている現在、そんな社員たちの気持ちを内側から考えるうえで役に立っているという。
研修を終えた山口は、飛び込みセールスの現場に突き出された。もともと会員権セール会社なのだから、これはまったくもって当然なのだが、それまで浪人の生活しか送っていった彼には、これはまったくオドロキの体験だった。
上司は、「売ってこい」としかいわない。
営業のノウハウを少しは教えてくれるのかと思って期待していた山口恭一は、まったくの荒野に1人で立たされているような気がした。
山口恭一はいう。「そこで、勉強したのは、『売らなければならない。売ってなんぼの生活だ』っていうこと。どういう風に売るかなんていうのは、二の次、三の次の問題なんだ。セールスマンなんだから、とにかく売らなければ食べていけない。それがよく分かった。そして、もうひとつ。これは現在役に立っていることだが、たしかに売らなければならないのが営業ではあるが、そのセールスマンを教育するためには、マニュアルや徹底した研修が必要だということ」
売らなければならない。売ってなんぼの生活だ。たしかに、そんな当たり前のことは、セールスの基本中の基本である。しかし、それを実際の体験のなかで学んだというのは実に貴重なことである。
成績の悪い売れない営業マンは、ともすれば、商品にケチをつけがちだ。
「こんなモノは売れない」
「こんな商品は、売る気になれない」
そんなことをいって、自分のセールスの弱さを弁護しがちなものだ。
しかし、そんな姿勢のセールスマンに、商品が売れるはずがない。
それよりも、山口恭一のように、
「まあ、とにかくやるだけやってみようじゃないの」
と前に進むことばかりを考えている人間のほうが売れるのではないか。
アントレプレナーシップというのは、なによりもまず行動が大切なのだ。