「ヒト・モノ・カネ」何もないけれど

山口恭一は、現在33歳。グループ年商26億円のハウスクリーニング会社トータル・サービスの社長である。ハウスクリーニングのフランチャイズ加盟は165社、並行してやっているウッドクリーニングのフランチャイズ加盟は95社ある。
これだけをみれば、彼が若くして成功を手にした実力者というふうに見えるだろう。
しかし、こういっては失礼かもしれないが、たかだか33歳の若者である。
世の中の修羅場をかいくぐってきた大経営者とは、ずいぶん大きなへだたりがある。
だが、ときには、そんなただの若者にしかできないことだってある。
ここで、しばらくは普通の若者山口恭一の過去をふりかえってみることにしたい。
山口恭一は浪人時代、2浪の末、大学進学を諦めた経験をもっている。当時の彼は、三無主義におちいっていた普通の若者だった。いや、本人は、「普通よりも劣っていた」とさえいっている。その彼が、どういう経緯で、現在のように経営者として活躍できるようになったのだろうか。
無為な生活を送っていた彼は、ある日、まわりの優秀な人間を見てあせった。
「三年後、五年後、自分はいったいなにをしているんだろう。サラリーマンになったところで、学歴もなければ、真面目でもなく、優秀な能力をもっているわけでもない自分が、出世できるはずはない。それにもうかなり出遅れている。しかし、社長になれば、大丈夫だ。自分で会社を経営すれば、大学に進学した連中を追い抜くことができる」 と考えて、会社をつくることにした。サラリーマンという舞台で勝負しないで、経営者という舞台で勝負しようというのである。
サラリーマンになった連中を見返したくて社長になるというのもおかしな話だが、ともかく彼はそう決意した。
決意した彼は、どうすれば社長になれるのかを調べることにした。
本屋に行ってビジネス書を立ち読みし、ビジネスマンをしている先輩や喫茶店を経営している先輩にも聞きにいった。本を買わずに立ち読みし、人に聴いてまわったというのが、いかにも山口恭一らしい。
その時得た結論は、
「経営者になるには、ヒト、モノ、カネの三つが揃っていなければならない。そのどれひとつをとっても自分にはない。どうやってそれを手にいれるのか。この答えが見つからなければ、自分は経営者にはなれない」
ということであった。
つまり、このままでは、自分は社長になれないということなのである。
そこで、また彼はヒトに聴いてまわった。先輩や友人など、ありとあらゆる知り合いに聴いてまわったのである。執念というか、コケの一念というか。とにかく走り出してしまったら、結果を得るまで納得しないタチのようだ。
あるいは、自分自身で考えるよりも、人に聴いたほうが、早いと思っているのかもしれない。
ともかく、何人もの人に聴いてまわっているうちに、彼はつぎの情報というかヒントを得た。
「経営者には、技術タイプと営業タイプがある」
そもそもそんなことも知らずに「社長になる」と動きはじめるのがおかしなところだが、その知識のなさは、この場合、むしろプラスに作用している。
もし、山口恭一が、最初に知識や情報が十分でなければ動きださないタイプだったとしたら、彼はけっしてそんな無謀な行動には出なかっただろう。せっかちで、とにかく動き出してみなければ満足のできない彼だからこそ、なにもわからないままに行動ができたのである。そんな人間なのだ。
で、技術タイプと営業タイプという基本的ともいえる知識を手にした山口はなにを考えたか。
「自分はどう考えても技術タイプじゃない。プラモデルを作るのも好きじゃなかったし、図画工作も嫌いだった。営業タイプとしてのプラス要素はないが、かといって技術タイプのようにマイナス要素もない」
そう考えた山口は、
「自分は営業タイプの経営者になるしかない」と考えるようになっていた。