ギブ・アンド・ギブのアイディア会議

ここで、アイディア会議の実際の現場をのぞいてみよう。
東京と大阪を中心に月1回開催されているアイディア会議には、龍角散の藤井康男社長やアルピニストの長谷川恒男氏などが講師に招かれて講演したりしているが、やはり、本命はな んといってもディスカッションである。自分の会社の問題点を提起して、それを他の経営者が一生懸命頭をひねって考えてくれるのだ。孤独な経営者にとって、こんなチャンスはめったにあるものではない。
ある日のアイディア会議で、名古屋を中心に、健康食品の販売会社を経営している三上治が口火を切った。
「いま、『プラネッツ』というチラシ宅配システムを試験的に稼働させているんですが、将来は名古屋市内だけで、800人の『ふれあいレディ』が活動してくれる予定なんです。彼女たちの潜在能力をいかして、どんな仕事ができるか提案してほしいんですが」
アイディア会議のテーブルについていたメンバーはつぎつぎと口を開いた。
「そりゃそうや。たんにチラシだけ配るんやったら中学生でもできる。そないに大勢の女の人集めたら、なにかやらななあ」
「手っとり早いところで、新製品のモニターはどうですか。メーカーもいざ人を集めるとなると、苦労しているようですから、これはいけますよ」
「それをもう一歩進めれば、グループを作って商品開発していくというのはどうでしょう。主婦なら、毎日使っている台所用品や掃除器具はもうちょっと手を加えれば便利なのにと思っていますから」
「それに、外で働く女性が増えているから、その『ふれあいレディ』さんにメイドさんをやってもらえれば喜ばれますよ。最近は家政婦さんを頼んでも高いですからね」
「そうそう、そういえば、主婦が外へ働きに出るのは、収入を得るためというより、生きがいというか、手応えがほしいという人が多いんですよ。だから、その『レディ』さんたちにもカルチャースクールや勉強会のようなものも用意してあげると、いくらでも集まるんじゃないですか」
ここで発言しているのが、規模は小なりといえども、いずれも経営者かそれに準じる立場にいるものたちばかりである。だから、自分でも毎日経営の問題には頭を悩ませている。それが、他人の問題だと、一種のゲームのようにつぎつぎとアイディアが湧いて来る。気分転換にもなるだろうし、頭の体操としても有効だ。もちろん、意見を求めた当人には、どれもたいへん有効なアドバイスである。
ディスカッションは、5、6人の小グループに分かれてすることが多い。別のテーブルでは、氷・冷凍菓子のメーカーである新潟のフジヤの石崎順一社長が発言している。
「こんど、球状の丸い氷を作る機械を開発してパテントを申請したところです。この氷の販売ルートなどで、アイデアを出してもらいたいと思ってまいりました」
丸い氷と聞いただけで、メンバーは興味を示した。
「最初の狙いは、ヤングに人気のある飲食店でしょうね。そこで話題になれば、コンビニエンストアや酒屋におろせばいい」
「でも、形が珍しいだけでは飽きられるのも早いから、むしろ、大清水や六甲の水のように、その氷を作る水の産地でなにか付加価値をつけたほうが息の長い商品になるんじゃないかな。丸い氷を見れば、これは長野の碓氷峠の湧き水を使っていると思ってくれればしめたもんですよ」
「やはり、販売ルートより、商品パフォーマンスで勝負じゃないですか。無害な着色料で何色もの色をつけて、レインボーアイスなんて名付ければいい話題になりますよ、きっと」
「でも、氷を売るとなると、輸送費がたいへんでしょ。氷よりも、むしろ製氷機を販売したり、その販売権を各地で売ったほうが儲かると私はおもいますがね」
議論百出ならぬ、アイデア百出である。飲食店、メーカー、サービス業など、業種は違っても、みな第一線で頑張っているメンバーばかりだから、議論するより、とりあえずなにをしたらいいかを考える習性が身についている。彼らが経営コンサルタントと決定的に違うのは、商売の上で、誰もが自分なりの体験をもち、少なからぬ失敗を経験してきたことである。
だから、思いつくままに言いたい放題言っているようでいても、すぐに役立ちそうなアイデアが多い。
たとえば、この日、おしぼりのリース業をやっている京都のビリーフ花園の鋸屋明徳会長から出た、
「人口プラント(植物)を事務所や飲食店にリースするアイデアを出してほしい」
との提案がなされた。これはけっしてあたらしい商売ではないが、それをいかに魅力あるビジネスにするかに、すぐさま智恵が絞られた。
「香料をつけてはどうですか。最近はどんな花の香りも木の香りも作られているし、固形で長持ちするのがあります。私の知り合いで香料関係の人がいますからご紹介しましょう」
「うちのレストランでは、貸し植木屋さんに鉢植えの木を入れてもらっていますが、できたら雰囲気のある絵やタペストリーも壁に飾りたいとおもっているんです。せっかくなら、それも手がけるといい。私だったら、そういうリース屋さんに店の飾り付けもお願いしたいですね」
このように打てば響くのが、アイディア会議の醍醐味なのである。
アイディア会議につねづね参加していれば、進取の気概をもって、果敢にビジネスに取り組む姿勢が自然と切磋琢磨されるのだろう。
経営者は、日頃、自分一人での決断を余儀無くされている。ときには、自信のないままに決断せざるを得ない場合もあるだろうし、ときには、ビジネスの先が読めなくて悩む場合もあるだろう。
そんなときに、アイディア会議での活発な討論を思い出してみれば、あらたな闘志が湧き出てきて、再び果敢にビジネスに立ち向かえるにちがいない。