いけるんじゃないか!? カシミアビジネス

トータル・ライフ・コミュニティーが、一般の異業種交流団体と最も異なっている点は、これから述べる共同事業にあるといってよいだろう。たんに、情報を交換しあい、ノウハウを学びあうだけの交流ならば、日本全国あちらこちらで見ることができる。しかし、トータル・ライフ・コミュニティーでは、単に情報の交換にとどまらず、これ!というビジネスが目の前にある場合には、会員企業が集まって、それを商売にしてしまうのである。
もっともいい例がカシミアコートの販売だ。
トータル・ライフ・コミュニティーが設立1周年を迎えた頃のことだった。
東京・西新宿にある山口恭一の会社に相田英文がぶらりと訪ねてきた。
相田は東京の大学の仲間とユニバーサルデータというマーケティング調査の会社を作り、専務におさまっている。大企業と組んでは、つぎつぎとヒット商品を生み出してはいるが、まだ28歳の若さだった。1年前、知人の紹介で会ってからというもの、山口恭一と気が合ったので、たびたび彼の会社を訪れるようになっていたのだ。
2人が会えば、ビジネスのアイディアが次々浮かんでは消えていくが、この日もそんな話が一段落したところで、相田が話題を変えた。
山口恭一はその後、何度も韓国に足を運び、ついに現地に工場をつくってしまった。管理は現地のエージェントにまかせたが、技術指導には海外での縫製指導の経験が20年以上ある日本人の女性スタッフがあたるようにするなど、一つひとつ問題を解決していった。
現在、このカシミアの事業は、韓国と日本の両国で別々の販売体制をとるようになっている。韓国では、韓国向けのオーダーメードと既製品の縫製だけを行うようにしている。日本向けのオーダーメードの縫製は、技術の確かな日本で縫製することにしたのである。
韓国国内での販売は、ひょうたんから出た駒だった。せっかく韓国の工場に日本の確かな技術を導入したのだから、それを韓国で売ろうということになったのである。韓国製品よりいささか割高な値段を設定しているが、品質も良く評判は上々であるという。
日本向けオーダーメードシステムのほうは、現在では雑誌などに載っている気に入ったデザインの写真を持っていけば、その通りにデザインしてもらえるまでに整備されてきた。基本デザインのパターンが30タイプ、ボタンも、全部で140種類用意されている。しかも、新しく依頼されたデザインは、まずウールで試しに作ってみて、オーケーならば、カシミアでつくることにしているので、信頼性も高い。日本国内で縫製しているのだから、技術も信頼がおける。
また、一度オーダーを受けたデザインは、基本タイプとして保存しておくので、どんどんデザインが増えていくのである。これに気をよくした山口恭一は、カシミアの通信販売も考えているという。こんな発想も、異業種の集まりであるトータル・ライフ・コミュニティーだからこそ可能だったものだ。
日本でのオーダーメードは、イタリアのピュアセンザというブランドのカシミア生地を使用している。これは知る人ぞ知る超高級ブランドで、日本でおいそれと手に入らない代物である。これが、直輸入できるようになったのも、さきほどの相田のツテがあったからだった。
さて、試行錯誤を繰り返し、ようやく形になったカシミア事業だが、山口恭一は、ここでじつに大きな収穫を得ている。
「日本語の通じない世界でビジネスをしてわかったことがいろいろあったんです。その1番大きなところは、ぼくたちは、言葉が通じるというだけで、相手に甘えた仕事をしていたんじゃないかと反省したこと。というのも、韓国で仕事をしていると、言葉が通じないために、いろいろなトラブルが起こる。しかし、その根本の原因は、言葉が通じないことじゃない。相手の立場に立って仕事の注文をしていないことじゃないかと気がついたんです」
山口恭一は次のような例をあげてくれた。
たとえば、韓国で、パンフレット用のイラストを注文した。「いくらかかるか?」と聞くと、かなり割高な値段を提示してくる。それでは高すぎるから、安くしてくれというと、「わかった。その値段でやる」という。しかし、でき上ったイラストを見て、山口恭一は愕然とした。
こちらが渡したラフスケッチそのままのイラストが出来上がってきたのである。
「なぜこんなものしかできないんだ」と相手に詰め寄ると、「安くしろというから、安い値段でやったんだ。あなたの要求通りにやっているのに、どうして文句をいうのか」と逆に憤慨されてしまった。
また、こんなこともあった。
生地見本帳を作るので、生地を貼ってもらうように依頼した。「何日かかるか?」と聞くと、「2週間だ」と答える。「それでは遅いから、1週間でやってくれ」というと、「わかった、1週間でやろう」という。安心して待っていると、でき上った見本帳は、生地が乱雑に貼られていて、とても使いものにはならなかった。相手は、「早くしろというからこうなったんだ」という。お前の注文通りにしたのに……といいたげな雰囲気だった。
「向こうにしてみれば、こちらの注文通りにやっているつもりなんです。こちらがいった『安く』とか、『早く』とかの注文を忠実にこなしている。だから、こちらとしても、もうなにもいえなくなってしまう。でもね、こんなギャップも、よく説明すれば分かってもらえるんです。考え方の違いをきちっと説明すればいい。ぼくは、『人ビジネス』なんていうことをしょっちゅう口にしていたものだから、このギャップにはガーンと衝撃を受けたんです。言葉だけじゃダメなんだ。もっともっと相手の立場に立って考えなければダメなんだと思ったんです」
山口恭一が発想を転換して仕事に取り組むようになると、韓国人パートナーの態度も変わってきた。山口恭一が「ぼくはコミュニケーションが大事だと思っている。人と人との付き合いのなかから、さまざまなモノが生まれるんだ」ということをきちんと説明すると、それまで受け身でしかなかったパートナーたちが、仕事上の提案を積極的にしてくるようになったのである。
山口恭一はいう。
「これは当然の人情だと思う。やはりね、隣の国から、金をもった奴が来て、『ナンボだ。もっと安くやれ』なんていう商売をしていると、相手だってムッとくるから提案なんてしない。そこを理を尽くして説明すれば、ちゃんと協力してくれるんです。韓国での経験はとてもいい勉強になりましたよ」
どんな苦難もプラスに変えてしまう山口恭一の真骨頂というところだ。